インフルエンザとワクチンのQ&A
南大塚クリニック 平成20年7月20日
1.インフルエンザと普通のかぜはどう違うのですか?
普通のかぜも様々なウイルスの感染で発症します。症状は、のどの痛み、鼻汁、くしゃみや咳(せき)などが中心で、全身症状はあまり見られません。発熱もインフルエンザほど高くなく、重症化することはほとんどありません。
一方、インフルエンザの場合は38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が強く、あわせて普通のかぜと同様の、のどの痛み、鼻汁などの症状も見られます。さらに、気管支炎、肺炎、小児では中耳炎、熱性けいれんなどを併発し、重症化することがあるのもインフルエンザの特徴です。
高齢者や、呼吸器や心臓などに慢性の病気を持つ人は重症化することが多いので、十分注意する必要があります。最悪の場合は死に至ることもあります。近年、小児がインフルエンザにかかると、まれに急性脳症を起こして死亡するといった問題も指摘されています。
また、インフルエンザは基本的に流行性疾患で、我が国では例年11月〜4月に流行しますが、一旦流行が始まると、短期間に乳幼児から高齢者まで膨大な数の人を巻き込むという点や、インフルエンザが流行した年には、高齢者の冬季の死亡率が普段の年より高くなるという点からも、普通のかぜとは異なります。
2.インフルエンザにはどんな種類がありますか?
インフルエンザには原因となっているウイルスの抗原性の違いから、A型、B型、C型に大きく分類されます。A型はさらに、ウイルスの表面にある赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という、2つの糖蛋白の抗原性の違いにより亜型に分類されます。いわゆるA/ソ連型、A/香港型というのは、この亜型のことです。歴史的にA型が大きな流行を起していますが、B型もヒトに感染し流行を起こします。
C型もヒトに感染しますが、大きな流行は起こさないとされています。
WHO推奨株として今年2008年から2009年にヒトの世界で広く流行するそ思われているのは、A/ブリスベン型ウイルス(H1N1亜型)、A/ウルグアイ型ウイルス(H3N2亜型)、B/フロリダ型ウイルスの3種類です。昨年とは、A型・B型とも3種類とも入れ替わりました。症状や治療、予防法には大きな違いはありません。まず、A型が流行し、春先にB型が流行る傾向があります。
インフルエンザの発症を防げるかどうかは、それぞれの人のからだがそれぞれのウイルスの種類に対して、防御のための抗体を持っているかどうかが鍵(かぎ)を握っています。
また、このように抗原性の違う2種類のA型インフルエンザとB型インフルエンザのウイルスが、同じシーズンの中で複数流行することが多いので、A型インフルエンザにかかったあとB型インフルエンザにかかったりすることがおこります。南大塚クリニックが接種するワクチンにはこれら3種のウイルスが混合されています。
3.インフルエンザにかかったらどうすればよいのですか?
どの病気でも共通して言えることですが、早めに治療し、体を休めることは、自分のからだを守るだけでなく、他の人にインフルエンザをうつさないという意味でも大変重要なことです。一般的には以下のような点に注意しましょう。単なるかぜだと軽く考えずに、早めに医療機関を受診して治療を受けましょう。
・安静にして、休養をとりましょう。特に睡眠を十分にとることが大切です。
・水分を十分に補給しましょう。お茶、ジュース、スープなど飲みたいもので結構です。
インフルエンザウイルス治療薬としての抗ウイルス薬は、医療機関で診察の上で使用できます。インフルエンザには抗生剤(抗菌薬)は効きません。しかし、インフルエンザにかかったことにより、他の細菌にも感染しやすくなり、このような細菌の感染による肺炎や気管支炎などの合併症に対する治療として、抗生剤(抗菌薬)が使用されます。それぞれの薬の効果は、ひとりひとりの症状や体調によっても異なり、正しい飲み方、飲んではいけない場合、副作用への注意などがありますので、医療機関できちんと説明を受けてください。
また、使用する、しないは医師の判断となりますので、十分に医師に相談することが重要です。
なお、いわゆる「かぜ薬」と言われるものは、発熱や鼻汁、鼻づまりなどの症状をやわらげることはできますが、インフルエンザウイルスや細菌に直接効くものではありません。
4.インフルエンザにかかったら学校や職場に行かない方がよいのですか?
一般的にインフルエンザウイルスに感染して、症状がでてから3〜7日間はウイルスを排出すると言われています。健康な成人では、インフルエンザは通常2〜3日で熱が下がりますので、熱が下がっても一両日はうつす可能性が残ることになります。
したがって、症状が出てから3〜7日間は他の人へうつす可能性が高いので、人の多く集まるところは避けた方が良いでしょう。学校や職場に行く場合はマスクをするなど、周囲の人へうつさないように配慮してください。
学校保健法では、「解熱した後2日を経過するまで」をインフルエンザによる出席停止期間としておりますが、「ただし、病状により学校医その他の医師において伝染のおそれがないと認めたときは、この限りではない」となっており、医師の裁量が認められております。また、職場復帰の目安については決まったものがありません。
インフルエンザ罹患後には体力等の低下もありますので、以上のような点を考慮の上、いずれの場合も無理をせず、十分に体力が回復してから復帰するのがよいと考えられます。また、咳(せき)などの症状が続いている時に人の集まるところへ出て行く場合には、咳(せき)やくしゃみをする際には必ずハンカチやティッシュで口元を覆う、あるいはマスクをするなど、周囲への配慮が望まれます。
5.インフルエンザワクチンの接種にはどんな効果がありますか?
インフルエンザワクチンの接種を行うことで、インフルエンザによる重篤な合併症や死亡を予防し、健康被害を最小限にとどめることが期待できます。このワクチンの効果は、年齢、本人の体調、そのシーズンのインフルエンザの流行株とワクチンに含まれている株の合致状況によっても変わります。ワクチンの接種を受けないでインフルエンザにかかった65歳以上の健常な高齢者について、もし接種していたら約45%の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止する効果があったと報告されています。
特に65歳以上の方や基礎疾患がある方(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)など)では、インフルエンザが重症化しやすいので、かかりつけの医師とよく相談のうえ、接種を受けられることをお勧めします。
わが国のインフルエンザワクチンは、WHOが推奨したウイルス株を基本にして、日本の流行状況や流行前の健康な人が持っている免疫の状況などから予測して作られています。現在のインフルエンザワクチンには、A型2種類およびB型1種類が含まれております。また、ワクチン接種による免疫の防御に有効なレベルの持続期間はおよそ5ヵ月となっていますので、毎年流行シーズンの前に接種することをお勧めします。
なお、当然のことですが、インフルエンザのワクチン接種ではSARSはもちろん、他のウイルスによる「かぜ」(かぜ症候群)にも効果はありません。
6.インフルエンザのワクチンはいつごろ接種するのが効果的でしょうか?
インフルエンザに対するワクチンは、個人差はありますが、その効果が現れるまでに通常約2週間程度かかり、約5ヶ月間その効果が持続するとされています。また、過去に同じ型のインフルエンザにかかっているか、ワクチン接種歴が有るか無いかにより、ワクチンの効果が現れるまでに差があると考えられています。多少地域差はありますが、日本でのインフルエンザの流行は12月下旬から3月上旬が中心になりますので、12月上旬までには接種をすまされることをお勧めします。
2回接種の場合は、2回目は1回目から1〜4週間あけて接種しますので、1回目をさらに早めに接種しましょう。最も免疫を獲得する効果が高いのは、1回目の接種と2回目の接種間隔がおよそ2週間の場合とされていますが、体調不良などで1回目と2回目の期間が4週間以上あいたとしても、ワクチン接種の効果はありますので1回目からやり直す必要はありません。
2回接種が必要な方は接種が可能になった時点で2回目の接種を受けておきましょう。また、逆に流行が始まっていて、2回接種を急いで行う必要がある場合には、不活化ワクチンですので、1週間以上あいていれば2回目の接種が可能です。
インフルエンザの流行には地域性がありますので、全国的なインフルエンザの流行が始まっていても、地域によってはまだ流行していない場合もありますし、その逆に、全国に先駆けて流行する場合もあります。インフルエンザワクチンは接種してから免疫が出来るまでに約2週間かかることを考慮して、お住まいの地域で流行がピークになるまでに間に合うか間に合わないかを、地域の流行の状況をよく見て判断し、かかりつけの医師とご相談して接種をしてください。なお、インフルエンザは1シーズンに2種類以上の型が流行することがありますので、今流行している型には間に合わなくても、その後別の型が流行する場合はその型の予防を期待して接種をしておくのもよいと考えられます。
7.インフルエンザワクチンの接種は1回法と2回法のどちらがよいのでしょうか?
二回法をおすすめするのは、昨年接種していないひと、およびインフルエンザにかからなかったひとです。もし、現在あるウイルスの抗体を持たないひとが1回法で感染を防ぐだけの抗体ができる確率はおよそ55パーセントです。2回法にすると90パーセントを越えるといわれています。しかし、抗体のできかたはひとによってことなりますので、断言はできません。安全を期するなら2回法がおすすめです。
昨年接種している方は、昨年の抗体の残りが期待できますので、原則的に1回法でよいと思いますが、さらに安全を期すためには、また重症化と死亡の報告が多い65歳以上の高齢者の方と、60〜64歳の基礎疾患(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症などを抱えている人、他人と多数接する機会の多いひとは2回法がよいでしょう。
いずれの場合も、ワクチンの接種をする場合には、かかりつけの医師と相談のうえ受けてください。
8. インフルエンザのワクチン接種を受けることが適当でない人や受けるときに注意が必要な人はありますか?
予防接種法に基づいたインフルエンザワクチンの定期接種が、不適当と考えられる方は、予防接種実施規則に以下のように示されています。任意接種については、自分の意思で決めることですが、医学的な立場からいえば、定期接種に準じて、十分な説明を受けて判断する必要があるといえます。
<予防接種実施規則第6条による接種不適当者(抜粋)
明らかな発熱を呈している者
重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によってアナフィラキシーショックを呈したことが明らかな者
その他、予防接種を行うことが不適当な状態にある者、これは、37.5℃を超える場合をいいます。
また、既往などから、接種の判断を行うに際して注意を必要とする方(接種要注意者)がおられますが、この方々は接種禁忌者ではありません。接種を受ける方の健康状態及び体質を良く考えたうえで、医師によって接種の可否が判断されます。接種を行う際には改めて十分に効果や副反応などについて説明をうけて、十分に理解した上で、接種を希望するかどうか決めてください。
インフルエンザワクチン接種の適応に関しては、年齢の下限はありませんが、通常生後6ヶ月未満の乳児にはワクチンを接種しません。
インフルエンザワクチンは病原性をなくした不活化ワクチンと言う種類で、胎児に影響を与えるとは考えられていないため、妊婦は接種不適当者には含まれていません。しかし、妊婦又は妊娠している可能性の高い女性に対するインフルエンザワクチン接種に関しては、国内での調査成績がまだ十分に集積されていないので、現段階ではワクチンによって得られる利益が不明の危険性を上回るという認識が得られた場合にワクチンを接種するとされています。また、妊娠初期はいろいろな理由で自然流産する可能性の高い時期なので、一般的に予防接種は避けた方がよいと考えられています。一方、インフルエンザワクチンを接種しても胎児に異常の出る確率が高くなったというデータも無いことから、予防接種直後に妊娠が判明しても人工妊娠中絶をする必要はないと考えられています。主治医によく相談をして判断してください。
参考までに米国では、「予防接種の実施に関する諮問委員会(Advisory Committee on immunization Practices)」の提言により、妊娠期間がインフルエンザシーズンと重なる女性は、インフルエンザシーズンの前にワクチン接種行うのが望ましいとされています。
てんかんの既往がある方に対しては、発熱で容易に痙攣重積発作を起こす場合もあるので、てんかんを治療している主治医あるいはその依頼に基づき、事例ごとに検討して、ワクチンを接種するか、しないかを決めるのが望ましいと考えられます。
9. 卵やゼラチンにアレルギーのある人もインフルエンザの予防接種ができますか?
卵アレルギーの程度にもよりますが、ほとんどの場合問題なく接種できます。インフルエンザワクチンは、その製造過程に発育鶏卵を使うために、ごくわずかながら鶏卵由来成分がワクチンの中に残って、それによるアレルギー症状がまれに起こることもありえます。しかし、近年は高度に精製されてワクチンにはほとんど残っていませんので、軽い卵アレルギーはほとんど問題にはなりません。
しかしながら、重篤な卵アレルギーのある方、例えば鶏卵を食べてひどい蕁麻疹(じんましん)や発疹(ほっしん)を生じたり、口の中がしびれたりする方や、卵成分でアナフィラキシーショックを起こしたことがある方は、ワクチン接種を避けるか、インフルエンザにかかるリスクとワクチン接種に伴う副反応のリスクとを考慮して、接種前にかかりつけの医師とよく相談のうえ、十分に注意して接種を受けることを勧めます。
また、ワクチンに安定剤として含まれていたゼラチンに対するアレルギー反応が報告されていましたが、現在、インフルエンザワクチンを生産している4社からの製品にはいずれも、ゼラチンは含まれていません。
10. 授乳中にインフルエンザワクチンを接種しても大丈夫ですか?
授乳婦はインフルエンザワクチンを接種しても支障はありません。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンというタイプで、ウイルスの病原性を無くしてありますので、体内で増えることもありませんし、母乳を通してお子さんに影響を与えることもありません。一方、母親がワクチンを接種したことによって、乳児に直接のインフルエンザ感染の予防効果を期待することはできません。また、ワクチン接種による精子への影響もありませんので、妊娠を希望しているカップルの男性の接種に問題はありません。
授乳期間中にインフルエンザウイルスに感染した場合も、このウイルスは血液中に存在することは極めてまれで、存在した場合でも非常にわずかであると言われています。したがって、母乳中にインフルエンザウイルスが含まれ、母乳を介して乳児に感染を起こすことはほとんど無いと考えられます。
しかしながら、母親と乳児は日常から極めて濃厚に接触しておりますので、飛沫で感染するインフルエンザ罹患中は、乳児に感染するのではないかという不安の声も聞かれます。濃厚接触によってインフルエンザ感染の危険性が増加するというのは事実ですし、また母乳が乳児にとって極めて重要であるというのも事実です。また一方では、インフルエンザ患者は発症前からウイルスを排出しておりますので、母親が体調の異常に気付いたときには、すでに感染しているかもしれません。もちろん発症後の方がウイルス量は多いので、感染の危険は増加するという指摘もあります。こういったことを認識して、個々の状況に応じて現実的に対応することが必要でしょう。少なくとも、手洗い、マスクなどにより可能な限りの予防策をとることは合理的な方法でしょう。なお、抗インフルエンザ薬を使用した場合は、薬剤が母乳中に移行すると言われており投与中に母乳を与えることは避けることとなっています。
11. はしかや、水ぼうそうにかかっていたり、定期予防接種の時期と重なった場合にはどうすればよいですか?
はしか(麻疹)や水ぼうそう(水痘)などに感染してしまった場合には、一般的には完全に治ってから4週間はインフルエンザのワクチンの接種をひかえた方がよいとされています。これらの疾患に罹患すると、免疫能が低下していることがあるため、ワクチン接種の効果を得るには期間をあけ、免疫能の回復を待つ必要があると考えるためです。
またインフルエンザワクチンは不活化ワクチンですので、接種後は1週以上間隔をおけば他のワクチン(生ワクチン、不活化ワクチンとも)接種が可能となりますが、急ぐ型を除き、できるだけ2週間あけた方がよいと思われます。
12. インフルエンザのワクチン接種回数は、法律ではどうなっていますか?
現在、日本で行われているインフルエンザのワクチン接種に使用するインフルエンザHAワクチンについては、平成12年7月から薬事法上の用法・用量が以下のようになりました。
年齢群 接種用量・方法 接種間隔・回数
13歳以上 0.5mlを皮下 1回又はおよそ1-4週間の間隔をおいて2回接種
6歳-13歳未満 0.3mlを皮下 およそ1〜4週間の間隔をおいて2回
1歳-6歳未満 0.2mlを皮下
1歳未満 0.1mlを皮下
ただし、65歳以上の高齢者に対しては1回の接種でも効果があり、2回接種による免疫の強化に関する効果についての評価は定まっていませんので、現在は1回接種が推奨されています。ただし、高齢者(65歳以上)に対するインフルエンザワクチン1回接種法による有効性の評価を行った結果、接種を行った後の抗体価の上昇は良好であり、重症化は十分に阻止する事が可能であったという報告に基づいています。また、これらの高齢者に接種した際の重篤な全身反応はなく、局所反応も軽微でした。
なお、予防接種法により、「65歳以上の方」、「60歳から64歳までの方で、心臓、じん臓若しくは呼吸器の機能に障害があり、身の周りの生活を極度に制限される方、又はヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方」については、年1回、予防接種法による定期接種を受けることができ、万が一予防接種によると考えられる著しい健康被害にあった場合には、その1回の接種については、予防接種法による救済制度が適用されます。
13歳以上64歳以下の方でも、近年確実にインフルエンザに罹患していたり、昨年インフルエンザの予防接種を受けている方は、1回接種でも追加免疫による十分な効果が得られると考えられます。2回接種をしたほうがより抗体価は上昇するという報告もあり、接種回数が1回か2回かの最終的判断は、被接種者の意志と接種する医師の判断によりますので、接種の際には最近インフルエンザにかかったことがあるかどうか、最近ワクチン接種を受けたことがあるかどうかとその時期、そして現在の体調などを担当医師に十分伝え、よく相談して下さい。
13. インフルエンザワクチンの接種による副反応にはどのようなものがありますか?
一般的に副反応は軽く、10〜20%でワクチンを接種した場所の発赤、腫れ、痛みなどをおこすことがありますが、2〜3日で消失します。全身性の反応としては、5〜10%で発熱、頭痛、さむけ、体のだるさなどがみられますが、やはり2〜3日で消失します。ワクチンに対するアレルギー反応として湿疹、じんましん、発赤とかゆみなどが数日見られることもまれにあります。
インフルエンザワクチンは毒性を除いた「不活化ワクチン」ですので、ウイルス自体は化学的に処理され病原性はありませんから、その接種によってインフルエンザになることはありません。ワクチンの接種後に発熱した場合も、インフルエンザ以外の冬季に見られる呼吸器疾患にかかった可能性もあり、必ずしもワクチンの副作用とは限りません。
極めてまれですが、死亡の届け出もあります。日本では、昭和51年から平成6年までの、主に小児に対して接種が行われていた頃の統計では、インフルエンザワクチン接種により引き起こされたことが完全には否定できないとして、救済対象と認定された死亡事故は約2,500万接種あたり1件でした。
14. インフルエンザワクチンに水銀(チメロサール)が含まれているというのはほんとうですか?
日本の製品を含め、世界で生産されているインフルエンザワクチンをはじめとした不活化ワクチンには、1930年頃よりチメロサールという輸送・保存時の防腐剤が、容器内の細菌などによる汚染を防ぐ目的で含まれています。チメサロールはエチル水銀を含んでいますが、水俣病などの健康被害が報告されているメチル水銀とは異なり、神経組織を始めとした臓器に取り込まれる割合は低く、その半減期(体内に取り込まれた量が半分に減るのに要する期間)も短くて、1週間未満(メチル水銀は半減期約1ヵ月半)とされています。現在のところ、ワクチンに含まれているような微少量で、実際的な健康被害の報告も、神経症状などを生じるといったような因果関係を証明する研究報告もありません。しかし、水銀剤であるということから、世界でも安全性に対する問題点が議論されており、WHOは当面はチメサロールを可能な限り減量し、将来的には代換えとなる保存剤を開発し、これを完全にとり除くことを各国に向けて勧告しています。わが国でも、減量の方向で努力が続けられており、現在市場に流通している製品には痕跡程度の量(0.004mg/ml〜0.008mg/ml)のチメロサールしか含まれていません。
15. インフルエンザワクチンで著しい健康被害が発生した場合は、どのように対応されるのですか?
予防接種法による定期接種の場合、予防接種をうけたことによる健康被害であると厚生労働大臣が認定すると、予防接種法に基づく健康被害の救済措置の対象となります。
また、予防接種法の定期接種によらない任意接種によって健康被害が生じた場合は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法による被害救済の対象となります。健康被害の内容、程度等に応じて、薬事・食品衛生審議会(副作用被害判定部会)での審議を経た後、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金、遺族一時金などが支給されます。詳細な内容は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(TEL:03-3506-9411)にご照会ください。
16. インフルエンザのワクチン接種の費用には健康保険が適用されますか?
予防接種については、病気ではないため健康保険が適用されません。原則的として全額自己負担となります。
ただし、65歳以上の方及び60歳以上65歳未満の方で心臓やじん臓、呼吸器等に重い病気のある方などは、予防接種法による定期の予防接種の対象となります。(60歳以上65歳未満の方で、対象となるかどうかわからない場合は、市区町村にお尋ね下さい)。市区町村により予防接種期間や、自己負担額が異なりますので、個別の情報については、それぞれのお住まいの市区町村へお問い合わせください。
また、そのほかの方の接種は従来どおりの任意接種で、ご本人と医療機関との契約により行うこととなりますので、接種費用は全額自己負担となります。接種費用は私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律により一定の価格の設定が禁じられており、医療機関により算定方法が違うため、医療機関により異なりますので、接種を受ける予定の医療機関へ直接お問い合わせください。使用されるワクチンはすべて、厚生労働省の決定したワクチン株を使用し、検定を受けていますので、ワクチンの品質に差はありません。
17. 新型インフルエンザが現れるとどうなるのでしょうか?
インフルエンザの流行の歴史をみると、かつて、スペインかぜと呼ばれるインフルエンザ(A/H1N1亜型)が現れたときは、大規模な流行と甚大な数の死者を出しました。新型インフルエンザが流行した場合、これに対して免疫を持っている人はいませんし、また事前に接種された予防接種の効果は余り期待できないため、かなりの数の罹患者と死亡者がでることが予想されます。アメリカでは8〜20万人の死者が出ると予測されており、わが国では3〜4万人の死者が出ることが懸念されます。
最近、ヒトにも病原性の高い鳥型のインフルエンザウイルスがヒト社会に定着し、近い将来にヒトからヒトへ感染するようになり、新型インフルエンザとなることが懸念されています。1997年に香港で発生した、鳥型インフルエンザ(A/H5N1亜型)ウイルスによる患者報告では、入院加療を受けた18症例中6例が肺炎の合併などにより死亡し、香港政府は1997年12月末、140万羽のニワトリを殺処分しました。このウイルスは、ヒトからヒトに感染したものではなく、恐らく感染しているニワトリからヒトに感染したものと考えられています。2003年には、中国で感染が報告されており、こちらはヒトからヒトへの感染が疑われています 。2003/2004年のタイ、ベトナムを中心とした東アジアでの家禽類を中心とした鳥インフルエンザ(A/H5N1)の流行では、少数ではありますがヒトでの感染が確認されています。2004年10月20日現在43症例が報告され、このうち31例が死亡しています。また、2事例においてヒトからヒトへの感染が完全に否定できず、調査研究が続けられています。これ以外にも、2003年2月にはオランダで、鳥型インフルエンザウイルス(A/H7N7)のヒトへの感染が確認され、家庭内でのヒトからヒトへの感染が強く疑われています。
この他にも2001/2002シーズンに、従来のヒトに感染するインフルエンザウイルスのA/H1N1とA/H3N2の遺伝子が交雑したA/H1N2が初めてヒトから分離されましたが、このウイルスには、これまでのインフルエンザHAワクチン(A/H1N1)で効果があると考えられています。
これらのウイルスがこのまま姿を消してしまうのか、あるいは再び勢いを盛り返して流行するかはだれにも予測がつきませんし、どのようにしてトリのウイルスが直接ヒトへ感染を起こしたのかもその詳細はわかっていませんので、監視の体制を強化していくことが必要です。
平成16年8月に、厚生労働省の「新型インフルエンザ対策に関する検討小委員会」がまとめた報告書が、厚生労働省のホームページに掲載されています。
18. インフルエンザワクチンは国によって違うのでしょうか?
インフルエンザワクチンに使うウイルスの株は、ほとんどの国でWHOが2月中旬に出している「北半球次シーズンに対するワクチン推奨株」に基づいて、国の事情を総合的に検討して決め、3つの型(A/ソ連型、A/香港型、B型)を含むワクチンが作られています。つまり、WHOの意見を参考に決定しているため、製造の都合上の違いはあっても、ワクチン株が国によってまったく異なっていたということはこれまでほとんどありません。つまり、日本で接種したワクチンも、米国で流行しているインフルエンザに効果がありますし、逆に米国で接種したワクチンも、日本で流行中のインフルエンザに対して効果があることになります。ただし、ワクチンの製造方法や添加物などは国によって若干の違いがあるため、接種によって得られる免疫力や副反応の頻度に、差が見られることがあります。
19. 今年のインフルエンザシーズンにSARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザが起こったら、どうすればよいのですか?
SARSについては、2003/2004シーズンにみられた発生報告は実験室内での感染例でした。また、鳥インフルエンザについては、国内での家禽類の間での発生はみられたものの、平成19年10月時点まで国内でのヒトの感染の報告はありません。今冬起こるのかどうかについては、世界中のだれにもわかりません。引き続き警戒をして行くことが必要です。
SARSはSARSコロナウイルス、インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、まったく違う病原体によるものですが、初期の症状はよく似ており、症状からだけでは区別はつきません。両者を見分けるには、医療機関において各種検査を行いその結果などから総合的に判断することが必要です。また、鳥インフルエンザの原因ウイルスは例年ヒトの間で流行しているインフルエンザウイルスとは異なりますが、同じA型のインフルエンザウイルスによる感染ですので、ヒトに感染した際の症状は共通の部分が多く、インフルエンザとの区別は一層難しくなります。やはり、医療機関で各種検査を実施し、詳細な解析を行って初めて確定診断ができます。
インフルエンザ様の症状が長引いたり、症状が強いか激しい場合で、かつ、実際にSARS患者と濃厚な接触をしたか、介護したか、同居したか、あるいはその体液に接触したか、SARSコロナウイルスや、それを含んでいる可能性のある検体を取り扱って実験をしているか、具合の悪い鳥との密接な接触などの感染の可能性が疑われるといった情報がある場合には、医療機関や保健所などへ早めに相談することが必要になります。先ずは、電話で相談をするようにしてください。
20. 今年の冬は新型インフルエンザなども考えて、いままでとは違った用心が必要ですか?
毎年冬季にはインフルエンザが流行して高い熱に悩まされる人はたくさんいます。特に神経質になる必要は有りませんが、もしも、再びSARSの発生があった場合や、鳥インフルエンザが流行した場合に、これらの急に発熱する疾患はすべて注意する必要があるので、インフルエンザのワクチン接種などをしておくとともに、体調の維持に心がけ、外出から帰ったらうがいと手洗いを励行するなどの、基本的な感染症の予防法を実行することが重要です。
インフルエンザワクチンは個人防御のために行うもので、外国への旅行や出張の予定者も、インフルエンザウイルスに感染した際に発症や重症化を防ぐためには、インフルエンザワクチンの接種は効果があります。特にSARS対策として発熱者のチェックを実施している国や、鳥インフルエンザがニワトリの間で流行している国へ出かける時には、発熱したときに病気を診断する際の「混乱を避ける」意味でもインフルエンザワクチンの接種を受けておくことに意義があると考えられます。渡航先国や、訪問先、訪問目的など、状況ごとに判断をする必要がありますので、常に最新の情報を入手するようにしてください。
また、このような自分を守るための対策とともに、咳などの症状があれば、周囲の人に感染させないように、咳(せき)をするときにはハンカチやティッシュなどで口元を覆う、あるいはマスクをするなどの気配りをすることで、周囲の人たちも感染から守るという姿勢が非常に重要です。特に、医療機関を受診する際には、体調を崩した人が集まっている待合室などで、他の方にうつさないように、必ずマスクを着用してください。
以上です。その他の質問は南大塚クリニックに直接お尋ね下さい。